車を家やデジタルサービスに接続するコネクテッドカーの競争は日本でもすでに始まっているが、一部の業界専門家によるとトヨタ、日産といった大手自動車メーカーはそういった競争に自国の消費者から待ったをかけられるリスクがあるのだという。
米国や欧州の自動車消費者たちと比較して、日本の消費者は、例えば車のダッシュボードディスプレイからコーヒーを注文するなどの付加価値サービスにお金を払うことに消極的である。そのような状況のためまだ日本の道路上を走行する車のうちコネクティビティ搭載の車は全体のわずか10%。米国の49%、欧州の31%と比べるとかなり少ない。SBDオートモーティブ社の調査によれば、中国では同じ搭載車が全体の20%、ほかのアジア太平洋地域も同じような数字が並ぶ中、日本だけが立ち遅れている。そうとはいえ、2016年に日本で販売された車の半数以上に衝突防止のための自動ブレーキが搭載されており、これは欧州の24%、米国の9%に比べてもとても多くなっている。ということであれば、どのような技術が日本で求められているのかはおのずと明らかになってくる。
アジア太平洋地域 (APAC) で何が起こっているか?
地域全体でみてもデジタル化率は高い。世界的にみてもAPACは様々な技術に溶け込むのが早い。1980年代から始まった小型化技術にしても、現在韓国が世界に誇る高速モバイルブロードバンドにしてもこの地域はいつも技術の先端にいた。
今日コネクテッドカーへの需要が一番あるのもこの地域であることは間違いない。中国国民はコネクテッドカーを入手するためにあと20%ほど余計に支出をしてもいいと考えている。APAC全体でみても可処分所得の多い中間層は増えており、こういった人々は総体的に最先端ツールへの要望が高い。よってハイテク搭載車を運転したいという願望も強くなる。
時間が経つにつれ、APAC域内の消費者たちは車に搭載されたコネクティビティに期待するだろう。車で移動中にデジタルサービスにアクセスしたいと思うようになり、あるいは今までとは違ったサービスを求める若者世代も増えてくるだろう。高級車の購入者平均年齢を例にとると、米国では54歳なのに対し、中国は37歳である。中国の消費者の実に65%がコネクテッドカーソリューションの導入に賛成で、欧州の40%、北米の32%を大きく上回っている。消費者たちは、コネクテッドカーが提供可能な更なるサービスに期待している。例えば道路安全モニター、車両の状態監視、双方向のエンターテイメントソリューションなどがそうである。日本の消費者たちがこの域に達するのにそれほど時間はかからないと希望したい。
日本で何が起こっているのか?
コネクティッドカーはすでに必然であり、特に安全や運行・交通管理、ユーザーエクスペリエンスや効率の向上をもたらす機能があるとなれば需要があるのは当然である。新技術は最適化された車の性能と総体的な運行管理等によって、走行時間やコストの削減を実現できる。ひいてはそれが環境にもよい影響をもたらす。しかし、日本でこの技術の需要が高まるためのキラーアプリケーションは何であろうか?
トヨタは、T-Connectと呼ばれるサービスを打ち出した。これは日本国内の消費者が運転中に交通情報をリアルタイムで入手でき、レストランの予約などもリアルタイムで可能にするサービスである。しかし消費者の反応は期待したほどではないようだ。トヨタは自社内にコネクティビティ関連のイノベーションを担当する子会社まで作り、2020年までに新車の70%にT-Connectシステムを搭載する目標をたてた。
日産は2022年までにすべての日産、インフィニティ、ダットサンの新車にコネクティビティサービスを搭載すると発表。ホンダは目標は設定していないが、ソフトバンクと協業してコネクテッドテクノロジーの開発に臨んでおり、日本の消費者に魅力的なサービスにしたいと発表した。
日本で次に起きることは?
日本は世界の中でも主要なマーケットであり、APACの中でも中国と並んで2大マーケットのひとつである。コネクテッドカー戦略にとっても地理的に重要な鍵となる。日本は自動運転車の導入数に目標を立てたが、APAC全体でみると、インフラ面での制約などから自動運転車は近い将来においてはそれほど増えるとは思えない。ユーザーベースで見て日本のチャンスは恐らく細かく特化されたパッケージサービスでドライバーに「インテリジェントアシスタンス」を提供するような形になるのではないか。
ではそのインテリジェントアシスタンスがキラーアプリケーションとなって日本のコネクテッドカー産業を押し上げていくのだろうか?すでに自動車に組み込まれているソリューションからみて、日本はすでにコネクテッドカーの時代に入っていて、次のステップに進める状態であることは明らかである。
スタティスタ社によると、日本におけるコネクテッドカー産業で得られる総収入は2019年に合計7億6,300万USドル。しかし今年から2023年までの間には年平均成長率11.7%で成長し、2023年までには総額11億9千万USドル、32.9%のコネクティッドカー浸透率を達成できる見込み。その過程でどのようなトレンドとデジタルサービスが生まれてくるのか、興味の持てるところである。
APACと日本におけるコネクテッドカーとその可能性についてもっと知りたい場合には、PwCと共著の白書In the Driver's Seatをご覧ください。
クリストフ・オゼールは現在アジア太平洋地域のセールスヘッド及び日本のヘッドを兼任している。APACのセールスヘッドとして、域内各国チームの売上向上、新規の大規模案件獲得をリード、サポートしている。 一方2012年まで合計で10年以上日本に滞在した経験と、オレンジビジネスサービスジャパンのカントリーヘッドとしての計7年以上(2007-2012 & 2016-現在)の経験から、日本のマーケットに関する知識は深い。 ジャパンのカントリーヘッドとして着実にビジネスの成長を牽引し、日本のキャリア各社とも確固で戦略的なパートナーシップを確立した。オレンジ全社の中で初めてパートナーシップ型ビジネスを成功させたといえる。 ベルギーのリエージュ大学にて販売管理学学士号取得。